愛知県の矢作川から農業用水や工業用水を取水する堰(せき)の施設「明治用水頭首工」(同県豊田市)で大規模漏水が起きてから1カ月が過ぎた。この間、所管の東海農政局は、ほぼ仮設ポンプによる緊急取水に追われた形で、従来の取水口から取水するための本体応急工事が緒に就いたのは、まだ最近。この工事が順調に進めば、当面、水需要はしのげるとするが、漏水を止める完全復旧を急ぎたい。

 今回の事態は河川の取水施設が農業にとっても工業にとっても死活的な存在であることを改めて示した。そもそもなぜ川底に大穴が生じたのか、異変が起きた後の対応は適切だったか、など原因の究明と対応の検証を急ぐことは、全国に多数ある頭首工で同じような事態が起きぬようにするためにも極めて重要だ。

 漏水の発覚後、農林水産省は原因の究明にあたる復旧対策検討委員会(大学教授ら有識者6人で構成)を設置した。6月上旬の初会合後に記者会見した委員長の石黒覚・三重大名誉教授は「経年的な変化を無視するわけにはいかないという印象を持っている」と述べた。

 現在の頭首工は1958年完成で、稼働64年。堰の下部付近の川底にはコンクリートのプレートが敷き詰められているが、常時、水に漬かっている状態なので劣化は進んでいるとみられる。石黒氏は「原因については十分な調査が必要」としながらも、川底に水の通り道ができる「パイピング現象」が起きた可能性を挙げた。

 もし、個別の事情ではなく、構造物の老朽化に原因があるとなれば、運用期間の長い他の頭首工でも起こり得るということになる。今回の事態を受けて、農水省は既に全国378カ所を緊急点検し異常はなかったと発表したが、改めて総点検が必要になろう。

 一方、既に昨年12月の時点で今回の漏水箇所に近い川底に小規模な穴が開いていたことが、目視で確認されていた。当時は、砕石を投入して漏水がある程度止まったため、それ以上の対応はとらなかった。だが、結局は大規模漏水に至った以上、適切な対処法だったか検証が必要だ。それが予兆や異変をどうとらえるべきかという教訓になるはずである。

 また、万が一の際の影響の大きさを考えれば、目視に頼る現行の点検のあり方でいいのか、検討する価値はあろう。