(2)品質に自信がある。だからこそ、こだわる。【おぼろタオル・引き算に商(勝)機あり】

2021年11月2日 11:00(2022年4月26日 12:07更新)

専用シリーズ3部作【利用シーンの引き算】

用途を絞ってヒットしたおぼろタオルの専用タオルシリーズ

用途を絞ってヒットしたおぼろタオルの専用タオルシリーズ

 朝、顔を洗ってさっぱり。仕事から帰ってお風呂につかり、リラックス。子どもと自分の髪を乾かして、ゆっくりとベッドに入る。そんな朝晩のルーティーン(日課)を快適にするタオルが、老舗メーカーのファン層を大きく変えた。

 愛媛県の今治、大阪府の泉州に並ぶタオルの三大産地とされる三重県。

 明治41(1908)年創業のタオルメーカー「おぼろタオル」(津市)は、本社の敷地内で、生地の織りから染色、縫製まで一貫生産する。

 製造工程の一部を他社に外注することが多いタオルメーカーの中で珍しい存在だ。


「永遠に作り続けて」中高年の愛用者は多いけど…

 昭和2(1927)年発売の主力製品「おぼろガーゼタオル」は、ガーゼとタオルの生地を貼り合わせた製品で、どこか懐かしく安心感を得られるような柔らかな肌触りが売りだ。当時、芸者さんたちがおしろいを落とすのに適した布を求めていたことから開発した。

 90年以上も人気が続くロングセラー商品として親しまれる。自分が赤ちゃんのころ、ガーゼタオルに触れると泣きやんだという女性から「永遠に作り続けてほしい」とファンレターが届いたこともある。

 ただ、愛用者は中高年が多い。若い世代へのブランド認知と市場開拓が課題だった。

 営業と企画の両部門を担当する山崎伸治取締役(53)は「今治タオルが一番いいとよく言われ、歯がゆかった」と苦笑いする。「商品に自信はある。でも悲しいかな。まず買ってもらえないと覚えていただけない

 そんな状況が2018年からの3年間で一変する。状況を打開する鍵になったのは、消費者の利用シーンごとに最適な性能を持つ商品を提案する戦略だった。

顔を洗った後「だけ」のために…専顔タオル誕生

おぼろタオルの直営店舗に並ぶ専顔タオルや専髪タオル

おぼろタオルの直営店舗に並ぶ専顔タオルや専髪タオル

 洗顔後に顔を拭くための「専顔(せんがん)タオル」(1100円)、髪を素早く乾かす「専髪(せんぱつ)タオル」(1650円)、そして体を洗う「専身(せんしん)タオル」(1100円)。18年から毎年1種類ずつ投入した3種類の専用タオルシリーズがおぼろタオルのブランドイメージを一新した。

 シリーズ第1弾の専顔タオルは、同社製品を愛用する女性の声から生まれた。「朝、顔を拭くのに長いタオルはいらない。もっと短いのを作ってよ」。顔をふくだけなのに、長いタオルを洗濯して乾かすのはもったいなくて面倒だという。

 洗顔後専用という発想が面白いと、山崎さんと森田壮常務(42)の男性2人で開発に当たった。

 約8カ月掛けて開発した専顔タオルは、通常の80㌢より短く、かつ顔を包み込める60㌢の長さ。通常の4分の1という0・05㍉の極細の糸で織ったことで、敏感な肌をやさしく包み込むような質感を持つ。

 京都工芸繊維大「やわらかデザイン研究室」の分析で、人が心地よいと感じるのに理想的な柔らかさに相当することが分かった。お母さんの胸の柔らかさに近く、安心感が得られるという。

 また、従来の3倍の速さで水を吸い、吸水量も4倍に及ぶ。糸に残る糊や不純物を時間をかけて丁寧に洗い流すことで綿の吸水性を最大限に引き出し、肌に触れるだけで素早く水分を吸い取るようにした。

「吸水速度3倍」「吸水量4倍」この性能を伝えたくて

 「何でも使える方が万人受けする。用途を限定して本当に大丈夫だろうか」という2人の心配をよそに、若い女性客が多い雑貨店などに並んだ専顔タオルは、1年間で約10万枚も売れた。

 用途を絞ったことで、かえって販路は広がった。従来製品と狙う客層が異なるため、問屋は介さず、小売店に直接売り込んだ。すると、洗顔後専用という切り口が好評で、「ロフト」や「東急ハンズ」、着物の「さが美」などに置いてもらえた。

 店頭用の販促物なども自社で作成、吸水率の良さなどを示す小冊子も一つ一つに付けて、性能を分かりやすくしたのも良かった。

 今や百貨店のタオル売り場にも、昔のように専門知識を持った販売員が立っていることは少ない。その上、どのタオルも特徴が似通っていてどれを買えば良いのかが分かりにくい。「商品自体に説明をしてもらう」ことが差別化につながった。

お風呂上がりの子どもを、湯冷めから救え

開発の経緯を紹介する山崎伸治取締役

開発の経緯を紹介する山崎伸治取締役

 ヒット商品は次のヒットを生んだ。

 きっかけは、専顔タオルを気に入ったお母さんや美容師からの要望だった。「お風呂上がりに子どもの髪を拭こうとすると嫌がって逃げ回り、湯冷めが心配。軽く当てただけですぐ吸い取るようなタオルがほしい」「化学繊維のタオルは引っかかりや静電気が気になる」

 これらの声を基に作った専髪タオルは、糸の太さは普通だが、特許技術で糸を膨らます加工を施し、ふわふわと豊かなボリューム感がある。

 頭に巻けるように1㍍の長さがあり、吸水量と吸水速度は一般的なタオルの5倍も優れる。速く乾かせればドライヤーを使う時間が短くなり、髪を傷めない。これも累計30万枚を売り上げ、シリーズで1番の人気となった。

 専用シリーズの「3部作」で最後に登場したのが身体洗い用の「専身タオル」。3重のガーゼ構造が空気を包み込み、きめ細かやかな泡を立たせられる。濡らして泡をつけると心地よい柔らかさになり、肌を刺激し過ぎない。薄手で乾きやすいのも特徴だ。

 最近の若者は体を洗うのに普通のタオルを使うことを知らず、スポンジやナイロン製のボディータオルや手で洗う。だが刺激が強すぎたり、手が届きにくい部位があったりといった不満がある。

 体を洗う用のタオルは、業界内では驚きがなくても、雑貨店などでは「こんなタオルで身体を洗うんですか?」と、意外性を持って受け入れられた。山崎さんは「タオル屋の常識はいまや非常識だった」と笑う。

累計販売60万枚超「娘に褒めてもらえた」

 タオルを買い求める消費者は二極化している。

 最近は、新聞販売店や金融機関などが配るタオルが減少、タオルは「もらう物」から「買う物」に変わりつつある。100円均一の店で安く買う人がいる一方で、一部の人は「多少高くても良い物がほしい」と品質を重視する。

 専用シリーズは累計60万枚以上を売るヒット商品になり、シリーズ発売前の17年度と21年度の比較で、会社全体の売り上げが3割伸びた。新型コロナウイルスの感染拡大で、自宅にいる時間が長くなり、リラックスできる商品の需要が上向いたことも追い風になった。

 若い女性向けのファッション誌から取材が次々と舞い込み、有名人やYouTuberが愛用品として紹介する。使用感を気に入った客が昔ながらの「おぼろガーゼタオル」も購入する好循環が生まれた。

 山崎さんは「『女性誌に載るようなタオル作ってるの?』って娘に褒めてもらえたのは嬉しかった」と話す。

成功体験がもたらす製品開発への好循環

贈答品用に発売した「オールインワン」タオル

贈答品用に発売した「オールインワン」タオル

 専用シリーズの成功体験は、直近の製品開発にも生かされている。9月に発売した「オールインワン」は、贈答品用の高品質タオルだ。

 価格はフェースタオルが2200円、バスタオルが4950円で、吸水性や柔らかさを高い水準で備える。

 お中元やお歳暮の市場が年々縮小する一方で、自分が良いと思った製品を友人や家族に贈る人が増えていることからギフト需要を狙った。

 このほか、赤ちゃん用のシリーズも展開予定で、現在、企画を進めているところだという。

老舗の強み、類似品が出回ったとしても

今後の商品展開について話し合う山崎伸治取締役と森田壮常務㊧

今後の商品展開について話し合う山崎伸治取締役と森田壮常務㊧

 アイデア商品がヒットすると、類似品が次々と市場に出回りやすい。

 専用シリーズの場合も、「柳の下の二匹目のどじょう」を狙おうと、似た切り口の他社製品が登場した。それでも、おぼろタオル社製の売り上げは落ちていない。

 「ターゲットを絞ることで、ターゲットにだけは必ず買ってもらえ、リピーターになっていただける」と、山崎さんは語る。

 品質の良さがあるからこそ、購入のきっかけさえつくれれば、ファンを増やせる。100年以上続く老舗の強みと自信がそこに現れている。(竹田弘毅)


静岡県立大・岩崎邦彦教授はこう見る
 「いろいろ使えるタオルですよ」では、イメージは浮かびません。何々専用とすることで、利用シーンが明確になる。利用シーンが明確になることで、お客さんは買いたい気持ちが喚起されるんです。
 例えばダニ取りクリーナーの「レイコップ」は、機能の絞り込みとも言えますが、「布団や床や畳など、いろんなダニが取れます」としていたものを、「布団専用」にしたことで、商品自体を変えなくても売れ出した。どちらも利用シーンを提案した良い例です。

★「弱み」を補うな、「強み」を貫け。【連載イントロダクション】