蒲郡で水揚げされたアカムツ、ワガなども並ぶ柳橋中央市場=名古屋市中村区で

蒲郡で水揚げされたアカムツ、ワガなども並ぶ柳橋中央市場=名古屋市中村区で

 夜明け前の午前6時すぎ、名古屋駅に程近い柳橋中央市場。鮮魚の仲卸業者のブースが連なる「中央水産ビル」の一角に、蒲郡市で水揚げされ運ばれてきた魚が並ぶ。

 「アカムツは2、3日寝かしたら即戦力でいける。アジもあえて1日おくと脂が回っておいしいよ」

 魚叶(うおかの)水産(蒲郡市三谷町)の内藤勝士さん(43)が、買い付けに訪れた常連の飲食店主らに語りかける。空が明るくなる頃、魚は次々と売れていった。

 蒲郡から毎朝トラックで魚を運び、柳橋に構える店舗で販売する仲卸業者は、魚叶を含め約10社。形原と西浦の魚市場で午前4時前に始まる競りで、最初に並べられて高値が付く魚を競り落とす業者も多い。大消費地である名古屋のすし店や日本料理店、別の仲買らを得意先にするためだ。

 例えば、蒲郡のスーパーではまず見かけない大きなアカザエビ。最近は地元でも高級食材と認識されるようになった深海性のエビだが、名古屋では以前からフレンチやイタリアンの食材になっていた。唐揚げが定番のメヒカリも、名古屋ではより大きなサイズが好まれるという。

 柳橋には知多半島など県内のほか全国から魚が集まる中で、蒲郡の強みは「深海」と呼ばれる沖合底引き網漁船が計4隻あること。丸竹水産(蒲郡市形原町)の吉本謙太さん(29)は「深海があるおかげで魚種が増え、『三河の魚』というブランドが認知されていると思う」と話す。

 仲卸らは客の注文に応えるため、船上の漁師と連絡をとって水揚げ予定を把握する。競りの直前に客に電話して売り込むことも。鮮魚を扱う知識と独自のネットワークを持つ彼らは、地場の水産業を支える存在だ。帰路は蒲郡で揚がらないマグロなどを柳橋で仕入れ、地元の旅館などに届ける役割も担っている。

 だがこの師走に入り、柳橋に激震が走った。中央水産ビルの所有組合が来年10月をめどに事業を廃止し、ビルを売却する方針を決めたのだ。入居する仲卸らが商売を続けるための代替地は決まっていない。

 蒲郡の魚を買い支えてきた彼らがいなくなれば、浜値(水揚げ港での取引価格)は大きく下がるといわれる。漁師も間接的に打撃を受けることになる。

 売却話の背景には、かつてのように魚が売れなくなり、補償金を得て廃業しようと考える業者も少なくないという事情がある。組合員の資格を持たず、決定に関与できなかった入居者たちは困惑する。

 ある業者がつぶやいた。「金はいらないから売る場所がほしい。魚屋だもん。魚が好きでやっているんだから」

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 県内有数の漁港がある蒲郡市では最近、深海魚をはじめとする地魚をまちおこしに生かそうとする機運が高まってきた。一方で、漁獲量の減少、消費者の魚離れ、国による水産改革などで漁業は岐路に立っている。このコーナーでは、魚にまつわる話題を紹介していきます。(木下大資)