
出荷を待つケーブル保護管を背にする杉江省吾社長=愛知県武豊町の杉江製陶本社で
出荷を待つケーブル保護管を背にする杉江省吾社長=愛知県武豊町の杉江製陶本社で
年間10万機が離着陸する中部国際空港の滑走路。地下に埋まる電線は、ちくわを束ねたような陶製の「多孔陶管」で守られている。ジャンボ機を想定した680トンの衝撃に耐え、海水にも腐食しない陶管を、国内で唯一製造するのが創業112年の杉江製陶。「日本一の技」が生み出す製品は、国内外のインフラで欠かせない存在となっている。
同社の陶管は120メートルもの長さがある1200度の窯を5日間かけて通り抜け、焼かれる。完成後の打音検査では1本ずつハンマーでたたき、目に見えないひびの有無を確認する。「一度埋めたら異常がないか確かめられない。絶対の信頼性が必要だ」と6代目の杉江省吾社長(39)は語る。
強度を左右するのは、2週間にわたる乾燥の工程。地元産の陶土など12種類の土を配合して成型し、表面だけが乾かないよう、最初の1週間はあえて湿気のある部屋に置く。その後に窯の排熱で水分を飛ばすと中心まで均一に乾き、頑丈な完成品になる。土の配合も湿度の調整も、長年の積み重ねによる独自の技だ。
焼き物が盛んな知多半島ではかつて、陶製の電線保護管を100社余りが手掛けたが、樹脂製や金属製が主流となる中で次々と撤退していった。杉江製陶は陶管の接続技術を確立し、戦後も製造を継続。ばらつきのある天然材料を使いながら安定した品質の製品を生み出して信頼を得てきた。
1979年に静岡県の東名高速日本坂トンネルで起きた火災事故では、内部の温度が400度に達しても同社の陶管で守られたスプリンクラーの電線は焼き切れず、水が尽きるまで作動し続けた。衝撃、腐食、熱から電線を守る力は他の素材を圧倒。成田、羽田、関西国際などの国内主要空港で同社の製品が活躍する。
近年はシンガポールのチャンギ空港やインドネシアの港湾など東南アジア向けにも輸出する。「私たちの技術が日本のインフラへの信頼を高めることにつながれば」と杉江社長。中部発のモノづくりは、アジアの社会基盤をも支えつつある。(石原猛)